先生とヤマハへ

予定していた時間に池袋のヤマハに、昨日持ち帰ってきた秦さんのヴァイオリン(名前がないからこう呼ぶ)を持って到着。
先生も到着したので、早速係の人にブラビオールV20の試奏をしたい旨伝える。
試奏室に入ると、ブラビオールV20SDと言う5周年記念のセットモデル(Serial No.363)と付属の弓を持ってきてくれたので早速試奏してみる。

非常に美しいブラビオール

弾いてみる前に、外観を見てみる。
表面は一色でむらなくニス塗りされており、裏板及び側面は綺麗な縞模様。
各所の仕上げも非常に美しくて、見た目だけだったら間違いなくブラビオールV20だと思う。
フィッティングは柘植だしね(^^;
ただ、細かいところまで非常に精密に作ってあり完璧で、表面のニス塗りも色むらなく均一なので、楽器というよりはいかにも工業製品という気がして、木で出来た楽器の暖かみと言うのは薄い気がする。
それに比べて、秦さんのヴァイオリンの方は手工品で比較的安価という事もあると思うのだけれど、ネックの付け根とか各部の端の部分が綺麗に削られてなかったり、ヴァイオリン表面の外周に沿ってはめ込んである二重の細い線もV20と比べると若干ゆがんでいるところがあったりするし、ニス塗りも均一に塗られていなかったりと、ブラビオールV20と比べると見劣りするかも。
フィッティングもローズウッドの渋い色だし。
一番気になるのは、ネックの部分。
ヴァイオリンは、ネックの部分のニス塗りをしないんだから、薄くしかしないんだか知らないけれど、どちらの楽器も色が薄いのだけれど、秦さんのヴァイオリンの方はちょっとネックの色がくすんでいてあまり綺麗な仕上がりとは思えないんだよね。
ペグが刺さっている部分の内側も綺麗な仕上げとは思えないし……まあここら辺を省略する事で廉価にしているのかもしれないけど。

柘植(ツゲ=ボックスウッド)は汚れる

はじめの頃から、柘植のフィッティングが良いとか拘っていたのだけれど、日曜日の夜にのりのりさんちのチャットでぽろろんさんとチャットをしている時に、つげは格好いいけど汚れが目立つし、だんだん色が茶色っぽく変わってくるよって話を聞いて、そっかーそうだよなーと納得。
そう思って見てみれば、60年代のカリモク家具みたいに渋くてイヤだなーと思っていたローズウッドのフィッティングも良く思えてきたから不思議。
そう言うわけで、秦さんのヴァイオリンが柘植ではない事に対しては全く気にならなくなったので純粋に弾き心地と音だけで比較出来るようになった(単純だ)。

素直に音が出る

まず、秦さんのヴァイオリンを弾いてみると、E線やA線などの高音は普通に音が出るのだけれど、D線やG線などの低音域は同じように弾いても音が響かないと言うか、迫力に欠けるというか、どうもしっくり来ないような気がする。
次にブラビオールに持ち替えて弾いてみると、同じように弾いているのに、なんだか凄く弾きやすいような気がするし、低音弦の方も凄くスムーズで自然に音が出ているような。
ただし、高音域の響きの綺麗さでは、秦さんのヴァイオリンの方が上回っているみたい。
でも、どの弦も同じようにバランス良く響く事が大切なのだとしたら、ブラビオールの方がバランスが良さそう。
先生も、ブラビオールを弾くときはずいぶん上手に弾くわね、とか言う。

弾きやすい

ブラビオールは、見た目が気に入っているから、無意識のうちに良く弾いている可能性があるので、これだけではなんとも言えないんだけど、弾き心地が違うのは事実。
人と話をしている時でも、仲の良い人と話をしている時には、ものすごく盛り上がるけど、あんまり知らない人と話をしているときには、すぐにシーンとしちゃって気まずくなったりするけど、同じようなもんなのかなぁ……。
今までヤマハのヴァイオリンを弾いたことがなく、興味はあるものの、やっぱり弦楽器製造に対する経験が少ないからどうかなぁ。。。と思っている先生が弾いてみたら違う印象を受けるんだろうかと思いながら、先生が試奏するのを聞く。
先生の感想は「さすがヤマハは良く研究しているわねー」と、思っていたよりも良い印象だったらしく、確かにブラビオールの方が気持ちよく演奏出来ると言うこと。
一年前の6月に、高嶋ちさ子のコンサートで、ストラディバリウスと1万円のヴァイオリンの弾き比べを聞いたときには、さっぱりわからなかったことからすると、それなりに違いがわかるようになってきたってことなんかな。

D線の響き

前日に、秦さんのヴァイオリンを選ぶ際にも一番迷ったのがD線の響き。
D線だけじゃなくてG線も含めて、高音に比べて低音が弱いような気がするのだけれど、G線の方は今まで使ったことがないと言う事もあって(笑)、イマイチ良くわからない。
先生が言うには、どちらの楽器もD線の響きは今ひとつと言う事なのだけれど、秦さんのヴァイオリンは高音域の響きや音色が良いだけに余計にD線がイマイチに思えてしまう。
外観はともかく、音色は凄く気に入っているんだけど、どうしても気になるんだよなぁD線が。
ちなみに、試奏する時に何を弾いていたかと言うと、各弦毎に「河は呼んでいる」を弾いたり、「アメイジンググレイス」や「モッキン・バード・ヒル」ぐらいしか弾いてないくせに、音色がどーのとか言うなと言う気もするが、まーその程度しか弾けないので(笑)。
ファイナルファンタジーのプレリュードとか弾いて、昨日のドラクエ小学生に対抗したいところだけど、即興でそんなものが弾けるほどじゃないんだよな。。。

ハイポジションの響き

次に、各弦のハイポジションの響きを先生に弾いてもらう。
今は、D線、A線、E線のファーストポジションしか弾けないので、これは自分で試せないのが残念。
ハイポジションの響きは、ブラビオールの場合高くなっていく程出にくくなっているみたいだけど、秦さんのヴァイオリンの方は、比較的フラットに出ているような気がしないでもない。
ハイポジションだけの比較だったら、秦さんのヴァイオリンの方が良いような気がするんだけど、そもそもそんな上の方まで使うようになるんでしょうか……って聞くと、ヴァイオリンを続けていくのであれば、そのうち(年単位だと思うけど)弾くようになるでしょうとか言う。ホントかね?

D線のハイポジションはあまり使わないけれど、G線のハイポジションはツェーぐらいまでは使うから重要という事。
ツェーって言うとCでしょ? ハイポジションって言うからには、当然ファーストポジションの薬指の話じゃないよね。

指番号 0 1 2 3 4
G A B C D E F G A B C

Aから始めるのがファーストポジションって言うなら、セブンスポジションって言うの?
うーん、そんなに上の方まで使うような演奏をする自分って想像出来ないんですが(笑)。
僕はメガネを掛けているので、イメージ的には川畠成道さんのような感じになるんだろーかと想像してみると、さらに現実感がなかったりして。

音が手前に出てくる気がする

先生も、弾いていて気持ちが良いと言う印象を持ったブラビオールだけれど、僕が「モッキン・バード・ヒル」を弾いているのを聞いて、自分で弾いている時と、人が弾いているときの響きが違うみたいと言う。
自分で弾いている時には、楽器の振動を体で感じるとか言うことがあるので違うのは当然なのだけれど、そう言うことではなくて、音が手前の方に響いているような気がすると言う。
狭い試奏室なので、はっきりとしたことはわからないけれど、もっと広い場所で演奏したときに違ってくるかもしれないと言う。
ブラビオールのラインナップはV10, V20, V30, V60とあるうち、V20は中の下という位置づけなのでプロがコンサートホールで弾く為の楽器というよりは、初めてのヴァイオリンを買う人とか向けの楽器と言う事だろうから、わざとそう言う味付けになっているのかも……わかんないけど。
元々、V10, V30, V60と言うラインナップだったブラビオールに、V20があとから追加されたワケだけれど、V20とV60が柘植のフィッティングということから考えると、V20はあくまでもV10の上位版と言う位置づけで、V60はV30の上位版だと思うので、V20とV30は型番こそ近いものの、全く別の設計方針で作られた別の楽器で、ホールとかの広い場所で弾くことを考えるのであればV30なりV60を選ぶべきと言う事なんだろうな、きっと。
フィッティング以外の外見は全く同じに見えるので、どこらに違いがあるのかとかはわからないけど。
ちなみにブラビオールにはV7と言うのもあるけど、コレは分数ヴァイオリンなので比較の対象外かな。

箱鳴り

気持ちよく響くブラビオールなのだけれど、低音域で箱鳴りしているような気がすると先生が言うので、弾き比べてみると確かに若干ボワーンというような音になっているような気がする。
それじゃあ秦さんのヴァイオリンの方はどうなのかと思って弾き比べてみると、ブラビオールで鳴っていた箱鳴りは気にならない。
先生の話し方や、前日に先生が以前所属していたオケの知人の方の話し方からすると『箱鳴り』すると言うのはあまり好ましい事ではないんだろうなぁと言う事は予想がつくけれど、箱鳴りする事と低音が鳴りにくい事のどちらがより問題なのかと言う事はわからないんだよね。

そのときには『箱鳴り』って言うのがどういうものなのか良くわからなかったが、あとでGoogleで調べてみると、ヴァイオリン制作者の佐々木さんのページに、凄く興味深い事が書いてあった。

 魂柱が緩めの時には「箱鳴り」の感じがし、低域の音量は大きいような気がする*1。G線のC音付近に空洞共鳴モードがあるらしく、魂柱を緩くすればするほど、そのモードが「ボーボー」という感じに発音した(箱鳴り)。
 一方魂柱をきつくすると、弦の張力が強くなったように(実際には同じ)音が引き締まったというイメージをまず感じた。そのために低域の音はボリューム感が減ったようにも感じた。しかし音がぼやけていない分、こちらの音の方がより好ましい印象を受けた。また中音域から高音域にかけては音量が明らかに増し、張りのある音となった。しかし少しつまり気味の発音をするようになった分だけ、発音がし難くなった音程が増えた。

つまり……

  • ブラビオールV20は魂柱が若干短い(個体によって違うだろうけど)
    • 良:低音域が大きく響く
    • 悪:箱鳴りする
  • 秦さんのヴァイオリンは魂柱が若干長い
    • 良:高音域の音量が大きく、張りのある音がする
    • 悪:低音域が響きにくい

魂柱の長さが全てというワケではないのだろうけどこういう事か。
佐々木さんの意見としては、魂柱が若干短いよりは、若干長い方が好ましい音がすると言うことだろうか……もちろん、丁度良い長さが一番なんだろうけど。
そうなると、箱鳴りするよりは低音の響きが弱い方が好ましい楽器という事なのかな。

好みの音色かどうか

響きはともかく、音色はどっちが好きか先生に聞かれる。
そうは言っても、去年バイオリンを習い始めるまではクラシック音楽に全く興味がなかった事もあって、ヴァイオリンの音楽も気合いを入れて聞いていた訳ではないこともあって、音の違いというものは若干わかるようになってきてはいても、どっちがより好ましい音色とされているのかはさっぱりわからない。
自分の好みの音色という事で言えば、どちらかというと秦さんのヴァイオリンの方なのだけれど、どういう音がよい音とされているのかと言う基準がわからないから、どっちが良いのかと言う判断は出来ないような気が。
でも、深みがあって良い音色に聞こえるんだよなぁ。

明らかに重さが違う

先生がブラビオールの中をf孔から覗いて、音が良く響くように表板は薄く作ってあるみたいと言う。
厚いから良いとか、薄いから良いとか言うワケではないと思うんだけど、比べてみると確かに厚さが違っていて、両方の楽器を持ってみると重さも全然違ってブラビオールの方が軽い。
ネックもブラビオールの方が細いようで、サイレントバイオリンと同じぐらいの太さのような気がする。
弾いたときにブラビオールの方が弾きやすいような気がすると感じたのは、一年間使ってきたサイレントバイオリンとネックの形状が似ているからなのかもしれない(同じメーカーだし)。

もう一台のブラビオールV20

店員さんが、個体によって音の出方が違うと思いますので……ということで、単体売り用のブラビオールV20(Serial No.161)を持ってきてくれた。
先生の意見としては、セットモデルのNo.363のブラビオールの方が音が良く響いて、弾いていて気持ちが良いと言う事。自分で弾いてみても、確かにセットモデルの方の響きが良いように思える。
機械を使って工業製品的に作られたヴァイオリンであっても、一つ一つの音の響きが違うと言うのは、凄く意外だった。
試奏をする前は、工業製品的に作られるヴァイオリンの方が、個体毎の差異もないだろうし、値段もはっきりしているから選びやすいんじゃないかなと思っていたのだけれど、同じ型番であってもこれだけ違うとは思わなかったな。
ヤマハの店員さんはセットモデルの方が新しいからでしょうか、とか言っていたけど、そう言う問題じゃないよな〜。
古くなったらならなくなるって言うんじゃ困るし。
先生が言うには、単体売りの方はしばらく外に飾りっぱなしだったんじゃないかって。

楽器の限界

次に、低音弦を瞬発的に強く弾く曲を先生が演奏してくれた。
そうすると、秦さんのヴァイオリンの方は、強く弾くと強く弾いただけ音が大きく響くのに対して、ブラビオールの方は強く弾くとそれなりに響くのだけれど、秦さんのヴァイオリンの時と比較すると響きが少ないみたい。
秦さんのヴァイオリンは、先生が強く弾けばそれに答えて、おりゃ〜こうか!?こうっすか!?っと音を出しているような気がするのに対して、ブラビオールV20の方はハァハァっもうムリっすよ……と苦しそうな感じ。
それぞれの楽器には、楽器の性能の限界があって、ここまでがブラビオールV20の限界ということらしい。
ブラビオールV20の購入対象者には、先生みたいな演奏をする人はまずいないわけで、そう言う人が気持ちよく演奏出来るようにと言う設計思想なんだろうな。
それ以上の性能が必要な人は、ブラビオールV60とか、アルティーダ等のより限界値の高い楽器をどうぞと言う事なのかも。
そうでもなければ、10倍以上値段の違うアルティーダの価値ってないもんね。
そのヴァイオリンを購入する人たちにあわせて、最適な設計をしている(たぶん)と言うことから考えると、さすがヤマハだなぁと思ったり。
どう考えても、ブラビオールV10とかV20を買おうと思う人は、コンサートに出て大勢の観衆の前で弾くことよりも、趣味でヴァイオリンを習っていて、人前で弾くのは年に数度の発表会だけって考えると、より楽に気持ちよく弾けた方がいいもんなぁ。

あれれ?

じゃあ、自分でも低音域を弾いてみようと思って、秦さんのヴァイオリンを弾いてみると、さっきまであれほど鳴りにくいなぁ……と思っていたG線やD線の響きが、なんだか知らないけど明らかに良くなっているような気がする。
もう一度ブラビオールV20に持ち替えて弾いてみると、さっきまでずいぶん響きが違うなぁと思っていたのに、低音の響きの差がなくなっているみたい。
再度、秦さんのヴァイオリンに持ち替えて弾いてみても、やっぱり低音域の音の響きが明らかに良くなっている。
短時間とは言え、弾いているうちに音が良くなって来たのねって言うけど、ホントにそんなことがあるとは驚き。

楽器は生き物

今までも、高嶋ちさ子さんがテレビで、自分の楽器が能力を発揮するようになるためには、もう少し弾き込まないといけないとか、弾いているうちに良く響くようになるとか言う話をしているのは聞いたことがある。
でも、正直な話、生き物でもあるまいし、弾き込んだから良く響くようになるとか、しばらく弾かないと鳴らなくなるとか言う事なんてあるわけないじゃんって思っていたんだけど、こんな短時間弾いているだけでも、これだけ変わるところを自分で体験してしまうと、ナルホドなぁと納得するよりほかないよなぁ。
以前先生が、ヴァイオリンは生き物だから、安い楽器をテキトーに買ってきてすぐに飽きてしまうのでは楽器が可哀想だって言っていたけど、確かにそうかもなぁと今なら思える。
弾いているうちに、自分の楽器に愛着が沸くって言う話を聞いても、ずっと使っていると使い慣れてくるとか、そう言う事なんだろうと思っていたけど、そう言うことじゃないんだなぁ。
サイレントバイオリンだと、そもそも響くべきボディがないので、弾き込んだからってそんなに変わらないと思うんだけど、これだけ変わってくると愛着のわき方はサイレントバイオリンの比じゃないのかも。

どれだけ弾き込む事が出来るか

ブラビオールの方は、そんなに苦労しなくても気持ちよく弾くことが出来るけれど、秦さんのヴァイオリンの方は弾きこなすには大変かもね、と先生は言う。
秦さんのヴァイオリンは、細かい部分の仕上げがイマイチだったりするので、そこら辺が理由で値段が安くなっているものの、楽器自体の潜在能力はブラビオールV20よりも高いらしい。
試奏してないからわからないけど、ブラビオールV60とかアルティーダを試奏したらまた違った印象になるんだろうけど高いしなぁ。。。
見た目も良くて、値段も安くて、素晴らしい音色のヴァイオリン……って言う都合の良い楽器を探すのは難しいんだろうな。

弾く時間があまり取れないのであれば(ドキッ)、ブラビオールV20の方が良いかもと言う。
防音室があるわけではないので、ナカナカ好きな時間に練習すると言うわけにはいかないから、弾き込まないと言うことを聞いてくれないと言う面倒な楽器は困るなぁと思ったけれど、ちょっとした時間弾いていただけでもあれだけ変わってくるところを聞いてしまうと考えちゃうよなぁ。
『ほらっ、こっちも頑張るからさ、ここはひとまず仲良くやろう。ただそっちも頑張ってくれないと困るよ!?』とか言われている気が(^^;。
そこまで言うなら、いっちょコイツで頑張ってみますか!!と言う気になって来た(笑)。

よろしくお願いします!!

そう言うわけで、さんざん迷ったあげく、やっぱり秦さんのヴァイオリンで頑張っていこうと言う事になりました!!
今後よろしくお願いします!!
どうせならブラビオールV30も弾いてみたいとか、ピグマリウスの試奏してないとか、若干心残りはあるけれど、こういうものって、迷ったあげく結局はじめに見たものが良かったと言う事になることが殆どなので、コレがベストな選択なんじゃないかなと思っています。